国交省の"LCCの参入効果分析に関する調査研究”から見る地方自治体の路線誘致の取り組み

今回の国交省の調査研究の目玉はこれです(個人的に)。
LCCの参入効果分析に関する調査研究(PDF)

本編では"地方空港のLCC 誘致活動に関するケーススタディ"となっており、LCCが就航している地方自治体へのヒアリングや、海外(オーストラリア)と比較し、地方自治体はどのようにLCCを誘致しているのか、誘致すべきなのか等が書かれています。

しかし専門的な用語も含まれているので、イマイチLCCの仕組みがわからない方でも分かりやすいように超簡単にまとめてみます。

路線誘致に最早必須のインセンティブや金銭的な支援

LCCが数多く就航するようになり、今と昔の仕組みは違います。
以前は航空会社が就航路線を検討し、航空会社が空港にセールスを行うというのが一般的でした。
一方、現在では地方自治体等が航空会社(特にLCC)にセールスをし、就航を実現するという例が多数見られます。

黙ってれば勝手に路線が増えると思っている某空港も中には存在しますが、基本的には今や各空港・地方自治体自身が誘致をする時代な訳です。



さて、誘致と言っても頭を下げればきてくれる訳ではなく、結局は具体的な支援が必須。
有名なのはベルギーのブリュッセル・サウスシャルルロワ空港がライアンエアーに行った支援策。
事務所の費用や、マーケティング・求人・着陸料等、年間で数億円の支援をしていました。

ところが余りに多額の支援をしてしまったので、こうした特定の航空会社のみに対する支援に批判が出てしまい、裁判沙汰となってしまいました。

適度な金銭的な支援であれば、世界中の空港・地方自治体とLCCの間で行わていますし、既に日本でも多くの自治体がLCCに対し様々な支援策を打ち出しています。

しかし日本の自治体が行っているLCCに対する支援でさえ、市民からは抗議がくることも。
良い例が松山空港。
松山市に送られた意見は以下の通り。
新規就航LCCのための空港設備支援に、6,499千円の予算を組んでいますが、これはジェットスタージャパンの成田便就航にあわせたもので間違いありませんね。
LCCの運賃を下げるために、特定の企業の利潤に繋げるために、市から、ひいては我々の税金から600万円以上を与えるのですか。
この600万円は、ジェットスタージャパン社が負担するべきものではないのですか。なぜ市予算から支出する必要があるのですか。 
これに対し、市長は以下のように答えています。
新幹線が整備されていない四国にとって、航空路線は、広域移動に欠かせない交通手段であり、厳しい都市間競争の中、本市の地域経済の活性化を図るためには、松山空港の利便性等の向上が必要だと考えています。
このようなことから、愛媛県、松山市、松山空港ビル株式会社が連携し、新たな航空路線の誘致を行い、このたび、ジェットスター・ジャパンによる「松山-成田」線の就航が実現しました。
今回の補正予算案は、施設管理者である松山空港ビル株式会社が実施する、専用スペースの改装費や、チェックインカウンターの設置等、新規就航に必要な空港施設の整備費等の一部に対して、県と協同して支援を行うため提案させていただいています。
本市としましても、低価格運賃をビジネスモデルとするLCCの就航により、航空路線が多様化し、市民の利便性の向上が図られるとともに、北関東をはじめとする首都圏からの交流人口の増加が見込まれ、地域経済の活性化にもつながると考えていますので、ご理解いただきますようお願いします。 
わがまちメール 新規就航LCCのための空港設備支援 松山市ホームページ

余計なお金を掛けたくないLCCにとって、インセンティブや様々な支援は必要不可欠。
しかし多額のインセンティブを行うことで、インセンティブを辞めると同時にLCCが撤退・・・なんて話が海外ではあるので、なんでもやれば良いという話ではありません。

地方自治体自身がマーケットを分析し、情報収集をし、上手にLCCと付き合っていく必要があるということでしょう。

LCCと自治体の差

国交省の調査では、国内の自治体(佐賀・茨城・長崎・愛媛)及び国内LCC4社に対しヒアリング調査を行っています。
調査内容は、LCCが就航を検討する際に検討する項目。
赤線はLCCが検討する項目。緑線は自治体の考えるLCCの関心度です。
これをみると、LCCは全ての点で関心度が高いのに対し、自治体は項目によって非常に差が大きい結果が出ました。

例えば、LCCは施設の余裕状況に最も高いポイントを付けていますが、自治体とは約2ポイントも低い値。
この良い例がスプリングジャパンの佐賀線でしょう。
春秋航空日本、成田 〜 佐賀線減便理由の詳細が県知事のBlogで明らかに | shimajiro@mobiler
結局減便という結果になりましたが、就航する前の段階でわかっていれば、何らかの対策は出来たのではないかと考えてしまいます。



自治体に行ったヒアリング調査の主な内容は以下の通り。ごく一部です。

  • 長崎県における LCC の主要マーケットは観光客である。空港に到着した際の第一印象が重要となるため、県から航空会社に搭乗橋を利用するようにリクエストをした。また、チェックインはスタンド形式ではなく、カウンターを設置することを依頼した。【長崎】
  • 空港の利用圏域として、近隣の都市圏までカバーできることを説明した。【茨城、佐賀】
  • LCC は既存航空会社と利用の仕方(予約方法、運賃体系等)が若干異なるため、周知や利用の定着を図るために、ポスター等を作成し PR を行った。特に年配の方は、LCC の利用に関するハードルが高い。県としては、せっかく安くて便利な移動手段があるのだから、それを県民に広く利用してもらいたいと言う思いがある。
  • 航空会社が不安を感じるのは、利用者に航空会社が認知されるまで、ある程度の時間がかかることである。県としても航空会社を誘致して利用を定着させることが目的であることから支援策を講じている。【佐賀】
  • 路線誘致の最大の課題は地域の知名度の低さである。【茨城】
  • 県民の利便性向上は間違いなくある。また、利便性向上は県として行う価値のある事業だと認識している。空港を介して他地域と繋がることにより、確かに観光利用は増加している。【茨城】

LCCに行ったヒアリング調査の主な内容は以下の通り。

  • 全般的にコストが高い。ほとんどの空港で 1 階が到着、2 階が出発の動線であり、ボーディングブリッジを使用する前提で施設計画がなされている。FSCとは分けて扱ってほしい。
  • 空港にグランドハンドリングの機能が備わっていないため、新規参入の障害となっている。大手航空会社の関連会社に委託しなければならないため割高である。
  • 就航可能な時間帯は非常に重要な要素である。既に他社が就航している時間帯はグランドハンドリング、給油の手配ができない場合がある。就航したい時間帯に就航できない。
  • 顧客の中心は観光客であり、観光客を定着させるのには時間を要する。観光客を少しずつ育てて地元を掘り起こしていくことから、航空サービスの展開として徐々に便数を増やしていくスタイルが基本である。知名度が低いと利用者が定着しないため、地域の支援が必要となる。
  • 地方に行くほど LCC の理解が十分ではない。低価格でも安全性が確保されていることを知ってほしい。地域住民の信頼を得るためには時間を要することから、マーケットを育てていく必要があり、一定期間は地域の支援が必要である。
  • 県民へのアンケート結果や、地域間の旅客流動特性等の情報を提示した自治体もあり、これらは路線開設の検討には有用であった。
  • 支援策は地域によって、支援可能な金額、内容が異なるため、どのような協力ができるかということを教えてもらいたい。支援策の金額に加え、支援内容もポイントとなる。支援内容としては、設備関係、便数・旅客比例インセンティブ、一定額のキャッシュバック等が考えられる。支援内容に定型はなく、個別対応である。
  • 拠点空港としての誘致なのか、拠点空港からの路線の誘致なのかによってアプローチの方法は異なる。但し、いきなり拠点空港にはならないため、まずは路線を誘致した上で様子を見ることとなる。拠点化に当たっては、事業が定着するまでの間、最低 3 年間の支援は必要である。
  • 搭乗率保証制度はネガティブな支援策である。搭乗率の目標値を上回った場合に、航空会社にインセンティブを付与するような仕組みのほうが集客に向けたインセンティブは働きやすい。

まとめ

調査結果を読むと、日本のLCC参入に対する問題点や改善点が見えてきます。
LCCと自治体の温度差はもちろんですが、自治体によっても温度差があり、よくLCCを研究しているな!と思わせるコメントがある一方
空港に到着した際の第一印象が重要となるため、県から航空会社に搭乗橋を利用するようにリクエスト
なんてコメントもあり、本当に様々です。

何より問題なのは、自治体に専門の知識を持った人がいない点。
欧州やオーストラリアにように、そういった人材を登用・育成できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうです。



日本の国内線でLCCが利益を上げるのは難しいと言われています。
しかしLCCが求めているものを、自治体や空港側が適切に支援していくことで、日本のLCCはまだまだ発展する見込みがありそう。

LCC元年と言われた2012年からもう3年。根付かないと言われた日本のLCCも、様々なトラブルを乗り越え、今日も運航を続けています。
来年はエアアジアジャパンが再び空を飛び、国内線に就航するLCCが5社となります。
一つでも多くの地方空港に就航する年になると良いですね!

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